『日本へのお金の持出し(1)』に登場した日本人Kさんから聞いた話について、書きたいと思います。
Kさんが桂林の商店街で靴を新しく購入しようと考え、20歳代の若い家政婦さんの案内で靴屋に行った時の話をしてくれました。
彼は彼女を、家の掃除や食事を作って貰うための家政婦として雇っていると言っていましたが、本当のところは私にも良く分かりませんし、また私には2人の関係を色々詮索する程の 関心もありませんでした。
通常中国では、お客がいろんな品物を購入する場合、定価を一瞥(いちべつ)しつつも、商品を自分が納得する迄吟味した後で値段の交渉に入る為、日本での買い物とは比べものにならない程、多くの時間を要することが多い様です。 汎用品が主流のスーパーは別として、値札が付いているにも関わらず、デパートでさえも値引き交渉している姿を良く目にしました。 但しデパートで交渉の対象となる品は、比較的単価が高い商品に限られていました。
Kさんも日本でのサラリーマン生活を大分昔に終えており、また特に中国で仕事をしている訳でもなく、毎日がゴルフ三昧の為、商品選択の時間はたっぷりありました。 ただ彼の場合、値引き交渉に時間をかけると言うより、むしろ品物そのものの質やフィト感に重きを置いて購入していました。
彼は靴屋に陳列されている靴で、自分が気に入ったデザインの靴を幾つも履いたそうですが、ピッタリ合う靴のサイズが見つからなかったため、その都度、店主に店の奥から箱に入った靴を持って来させたそうです。
このため靴屋の店主は、かれこれ1時間ほど付き合わされた様です。 『残念ですが、お客さんの足に合う靴は当店には御座いません。』と靴屋の店主が一言いえば、それで終わりだったのですが、「目の前のお金を持っていそうな日本人客を逃すまい。 是が非でも買わせてみせる。」と心に決めていたものと思います。 決して彼に合うサイズの靴が無い、とは言いませんでした。
Kさんは小1時間つぶして見ても、そこの靴店に自分に合う靴が無い事を確信し、家政婦さんと一緒に店を出たそうです。
そして、2人で話しながらゆっくり写真の『解放橋』(中国では日本軍や国民党の軍に対する戦勝を記念するためか、解放橋とか戦勝橋とか言う名の橋があちこちにあります。)を渡り、自分のマンションに戻ろうと橋の中ほど迄来た時、後ろから『おーい! おーい! 待ってくれ!』と言う声が聞こえて来たそうです。
2人は何事かと振り返ったら、靴屋の主人が靴を入れた箱を手に取り、汗をかき息を切らせて追って来たそうです。 彼は『あなたが選んだデザインの靴で、やっとあなたにサイズが合うものを見つけたので持ってきた。取敢えずこの靴を履いて欲しい。』と言い、箱ごと彼に渡したそうです。
彼は箱から靴を出し身体を屈めて靴を履こうとした時、靴の内側のサイズ表示の部分になぜか新たなサイズ表示のシールが貼ってあり、彼がそれに気が付き、そのシールを剥がすと先ほど店で小さくて履けなかった靴のサイズ表示だったそうです。
そこで彼は靴屋の主人に文句を言いつつ、しゃがめた身体を伸ばそうとした時、突然後頭部を思いっきりゲンコツで殴られ、頭がボーッとなり、身体がよろけたそうです。 しかし次の瞬間、男の凄い悲鳴が聞こえたそうです。
倒れた下から、上に向かい良く見ると若い家政婦さんが、ゲンコツで殴った靴屋の主人の片手を自分の両手でつかみ、思いっきり口で噛んでいたそうです。 この様な事をするのは日本では主人に忠実な番犬しか知りませんが、彼の若い家政婦さんは、番犬にも劣らない忠義ぶりを発揮したそうです。
飽く迄Kさんから聞いた話ではありますが、中国では、女性だって男性に負けていないという事を、実感させられます。