日本へのお金の持出し (2)  

私が調査したことがかなり専門的内容で、また中国の為替管理法が頻繁に変わる事、事前提出書類等実務上の対応が銀行により異なるため、ここでは総括的に見ても、如何に国外へのお金の持出しが大変かを理解して頂ければ幸いです。

(1)日本国内での元預金口座の開設

前回、「日本の都市銀行で、わざわざ『外国為替管理法』に基づき自分自身が元預金口座を作ったとしても、ここに中国の銀行口座から元で、そのまま日本へ送金することも不可能です。」と書きましたので、念のため日本で元預金口座の開設が出来るのかを調べて見ました。

まず外貨取扱量が一番多い三菱東京UFJ銀行本店に問い合わせると、法人の元預金口座は開設できるが、個人の元預金口座開設のサービスは実施していないとの回答で、他の都市銀行の状況も調べて貰いましたが、個人向けの元預金口座の開設は見当たらないとの回答でした。

そこで日本にある中国銀行なら開設出来るのではないかと考え、中国銀行東京支店に電話で問合せました。先方からの回答は、『個人向けの元預金口座の開設は、通常の国内預金口座の開設と全く同じで、直ぐに開設可能。』とのことでしたが、問題は『手持ちの元を持参し元預金する場合、元から円にチェンジするのでも無く、ただ単に元を開設口座へ入金するだけなのに、1元につき2円の手数料が発生するとのこと。

また逆に元を引き下すときも、2円の手数料がかかる。』ことでした。こうなると為替レートが@17円/元前後(当然の事ながら、銀行は元から円へのチェンジでも利益を得ます。)なのに、2円もの銀行の高い入出金手数料では、全く話になりません。
但し中国銀行東京支店でカードを作った場合、そのカードを持ち中国に行き、現地の中国銀行で30000元/日(@17円/元として51万円/日)迄の出金は可能との説明でした。

何れにしても、日本の都市銀行も、中国銀行の日本での各支店も、個人向けの妥当な元預金口座を開設する仕組みが無いという事が判明しました。

そこで私は一度諦めたものの、FXForeign Exchange」の英略で、 正式には「外国為替証拠金取引」といい、「 外為(がいため)」の略称でも呼ばれている。 ドルやユーロなどの外国通貨(為替)を交換・売買し、その差益を目的とした金融商品を取扱っている会社の中に、『元通貨』を取扱っている会社があることを思い出し、その会社へ元での取引を紐づける銀行があるのではないかと、電話で問い合わせて見ました。

そうすると、『元取引において、日本の都市銀行に法人外貨預金口座は無く、香港の銀行に外貨預金口座を開設しているが、個人からの元での入金は受付けていない。中国国内での銀行への法人外貨預金口座の開設は、中国政府の施策(中国では近年、外貨管理規制の強化に伴い頻繁に制度改正が行われている)に左右され為替取引を目的に、開設することは適切ではない。』との回答でした。

結論として日本国内或いは香港で元預金口座を開設後、FX会社指定の元預金口座に入金し、日本国内でこのFX会社を利用し、非常に安い数銭~数十銭の手数料(ちなみに銀行での外貨を持参しての両替は、単位通貨辺り1円~3円程度の両替手数料が発生)で、元を円に両替することが無理であることが判明しました。

2018.10.18.追記

中国国内から香港の指定銀行口座への送金は、一応制限はあるでしょうが、1国2制度の国のため、日本への送金に比べたら、制限が多少緩やかではないかと思われます。(実際に私自身やったことはありませんので、想像の範囲でしか言えませんが・・・・・。) 最悪、『(4)イレギュラーな元の持出し方法』で持ち出す方法も考えられます。

日本では中国元取引のFX会社も散見されるため、私が問い合わせた内容に対し、前述のとおりあるFXの会社からは『個人からの元での入金は受付けていない。』との回答がありました。 これは逆に言うと、会社からの元入金は受付けているという事なので、香港にあるFX会社の銀行指定口座へ中国国内から元で振込み、会社が日本で円を入手する方法は、非常に安価な両替方法として意外と利用されているのではないかと思われます。

(2)中国の銀行から、日本の銀行口座への送金

この場合は(1)で書きました様に、個人では日本国内に元預金口座を開設出来ないため、中国国内で外貨を取扱う中国銀行であれ、中国建設銀行であれ、中国からの元送金が出来ません。 そのためまず最初に、中国の外貨取扱銀行で、口座の元を円にチェンジすることが必要となります。この場合も、◆で示した換金制限や関連の資料提出を要求されることで、多くの時間的ロスと銀行員に横領されるのではないかと言う心配が過(よぎ)ります。

◆人民元から外貨への換金制限                            まず人民元を外貨に換金する手続きが必要となりますが、人民元から外貨への換金は、中国人と外国人で取り扱いが異なります。
(ア) 中国人の場合
1人当たり年間50,000USドル(@106円/ドルとして530万円)迄であれば、身分証明書を提示することにより換金を行う事ができます。
(イ) 外国人の場合(ここでは日本人に限定し説明致します。)
中国で得た人民元収入(給与、不動産の売却収入など)は、銀行が要求する証憑書類(しょうひょう書類;請求書、領収書、納税証明書、給与証明等)を提示することで外貨への換金が認められます。                                       また私が日本より持ち込んだ円から、換金した人民元を再度日本円に換金する場合には、当初の換金日から2年以内に身分証明書と元の外貨換金証明書を銀行に提示し、手続きを行う必要があります。

実は(イ)では中国人の場合と異なり、外国人の場合年間の換金制限は無いものの、個人では銀行が要求する証憑書類を提出することは殆ど難しいのです。日本の会社が中国に進出していて、税金などキチンと払って呉れているとクリアーは出来るでしょうが、それでも大変な作業となります。まして私の様に、世間一般に脱税が横行している中国人経営の会社に勤めていた場合等は、納税関連の書類を会社に求める事すら出来ません。

更に取得した*ビザの種類や、中国人に優先的に職を得させるため、外国人が仮に労働ビザを取得していたとしても年齢、職種、就労期間等に制限を設けており、通報等によりこれに違反したことが判明した場合、円に替えることが出来ないばかりか、罰金の支払いから最悪国外退去になる可能性もあります。

*ビザ(査証)とは、パスポート自体が、各国政府が発行をおこない、国外に渡航する人に国籍や身分を証明するものであるのに対し、ビザは渡航先の国が自国民以外の人に入国を許可するために発行する、いわゆる入国許可書となるものです。ビザには観光・商用・就労・留学など様々な用途の種類がありますので、渡航する目的によって、申請するビザの種類が異なります。

場合によっては、資金の出どころ等で銀行員に弱みを握られ、銀行員に口座のお金を横領されるのではないかと言う、心配も起こります。
そこで、換金額が1日500 USドル(@106円/ドルとして5.3万円)以内の場合には、パスポートのみで換金可能な為、これを何回も繰り返す方法も考えられますが、纏まったお金を元から円に替えるのには、かなりの日数が必要となります。

そこで私が採った方法は、中国銀行で口座から元を引出し、これを中国人の親しい友人にお金を渡し(ア)の方法で、中国建設銀行で円に替えて貰いました。              幸運なことに私の友人が、たまたま中国建設銀行の行員と親しかったこともあり、友人の銀行員の助言を得て、無事換金致しました。私の場合、日本円に換算しても50,000USドル(@106円/ドルとして530万円)にも満たない金額であったことから、この方法で良かったと思います。

◆中国からの国外送金制限                              元から円への換金が終わったので、今度は桂林から日本の私の銀行預金口座への送金ですが、個人が行う海外送金については、外貨口座預金から送金する方法と、手許外貨現金を送金する方法の2通りがあります。即ち、

(ア) 外貨口座からの送金
①1日の送金額が50,000 USドル(@106円/ドルとして530万円)以下の場合:
銀行にパスポートを提出することで国外送金が認められます。
②1日の送金額が50,000 USドル(@106円/ドルとして530万円)超の場合:
銀行にパスポート及び証憑書類の提出が必要となります。

(ア)の方法はドル(又は円)の外貨預金口座を作り、ここからドル(又は円)での送金をベースとするのですが、元と円との交換がスムーズでない私には、不向きなやり方です。ドルで送金するとしたら、私は事前に日本でもドル預金口座の開設をしておく必要があります。

また中国の銀行によっては、ドルの外貨預金口座開設は可能でも、円の外貨預金口座開設を認めない銀行もあるかも知れません。しかしなぜなのか理由が良く分かりませんが、不思議なことに中国銀行で私がわざわざ外貨の円預金口座を作らなくとも、日本からの円送金はそのまま私の普通預金口座へ入金が為されます。多分外貨の円をスムーズに元に替え、積極的に中国国内でお金を使わせるためにこの様なシステムにしたのだと思います。(逆の元を円に替え日本に送金するのは、本当に大変です。)

(イ) 手許外貨現金の送金
①1日の送金額が10,000 USドル(@106円/ドルとして106万円)以下の場合:銀行にパスポートを提示することにより送金が認められます。
②1日の送金額が10,000 USドル(@106円/ドルとして106万円)超の場合:銀行にパスポート及び取引金額の記載がある証憑書類、外貨口座からの現金引き出し証明などの書類を銀行に提出することで送金が認められます。

実際に日本への送金方法として(イ)①を複数回に分けて行いましたが、私の友人の銀行員の助言もあり、手続きは1日で済みました。結果的に1回100万円位下に抑え、日にちをずらし何回かに分けて送金する形にしました。また2万元(100元札✕100枚×2束の合計32万円相当額)は、そのまま帰国時に手持ちすることにしました。

◆国外送金に必要な資料

本社が日本で、中国支店や中国との合弁会社に勤務する日本人が日本へ送金する場合は、次の様な書類を提出することが求められますが、個々の書類の作成や入手に於いて、かなり手間と時間を要します。

(1)給与収入を送金する場合
① 労働契約書(原本)
② 外国人就業証(原本)
③ 個人所得税納税証明(原本)
④ パスポート(原本)
⑤ 給与証明(銀行の専用フォームに記入し、給与を支給する法人の社印の押印が必要。)

特に不動産の売却収入を送金する様な『日本へのお金の持出し(1)』で書いたKさんの場合、 通常だと以下の手続が必要で、これを見ると、皆さんもとても無理だと納得されることと思います。

だから上海の不動産上昇が際立っているからと言って、日本人が投資用のマンションを購入しても、中国の外貨規制の法律が緩まない限り、売却後の資金を日本に還流するのは大変なことです。

上海に多額の投資をして大きなビルを作っている森ビルなどは、得た利益を中国国内で再投資している間は問題が無いでしょうが、資金を日本に還流する時期が来た時は、かなり苦しむのではないかと予想します。

『ドイツのメルケル首相が、自動車を始め中国へ進出した多くの企業がドイツへの資金還流が円滑に出来ないことに苦言を呈していた。』との、記事を見たこともあります。

◆国外送金手続例

外国人が不動産を売却して得た資金を日本に送金する場合、下記の手順により手続を行いますが、所管する役所や法改正により変動があります。

【ステップ1】
不動産所在地の税務局窓口にて《服務貿易等項目対外支払税務備案表》の申請を行います。
申請の際には、中国語で書いた下記の資料が必要になります。

① 送金者のパスポート(原本及びコピー)
② 他人へ委託する場合、委託者のパスポート(原本及びコピー)公証した委託書(原本及びコピー)
③ 不動産販売契約書及びその公証書(原本及びコピー)
④ 増値税発票(原本及びコピー)
**増値税とは、不動産売却額から必要経費と不動産取得価格を控除したあとの利益にかかる税金のこと。
⑤ 不動産売却後の買主に名義が切り替わった不動産権利証(コピー)
⑥ 関連税金納付済証明(原本及びコピー)
⑦ 個人不動産売却増値税申告表(原本及びコピー)
⑧ 売却済の新所有者名義の不動産登記簿(原本及びコピー)

【ステップ2】
銀行窓口にて国外送金の手続を行います。送金手続きの際には、中国語で書いた下記の資料が必要です。

①【ステップ1】を経て入手した《服務貿易等項目対外支払税務備案表》
②関連税金納付済証明(原本)
③売却済の新所有者名義の不動産登記情報
④不動産販売契約書及びその公証書(原本及びコピー)
⑤他人へ委託する場合、委託者のパスポート(原本及びコピー)、公証した委託書(原本及びコピー)
⑥送金者のパスポート(原本及びコピー)や送金する円の持参

(3)出国時に元の手持ち

日本の高額紙幣である1万円札、5千円札にも、左下に小さな銀箔が入っています。一方中国の最高高額紙幣である100元札、それから50元札、20元札等には、100元札と似た銀線や紅銀線が入っています。

この件に関し、以前横浜銀行で書かれた資料をネットで見つけて一時保管していたのですが、この話を書くまでに見つけだすことが出来なかったため、書かれていたことを記憶を頼りに書きたいと思います。

銀箔や銀線を入れる大きな理由は、にせ札防止と高額現金の移動制限にある様で、日本や中国に限らず、国際的な共通認識となっています。

特に出国時の限度額以上の金(かね)の持出し禁止や、入国時の申告のない課税逃れ防止や、  現金の国際的な移動によるマネーロンダリングの防止を目的に、銀箔や銀線を入れることで、多額の紙幣持出しが空港のX線検査で分かるようになっている様です。

私が持参した100元札200枚は、出国時は5000ドル相当(日本円で53万円)以下であれば簡単に持ち出せますし、また日本入国時には100万円位下の現金は申告不要な為、何も問題なく税関を通ることが出来ました。

私自身多額の現金を持っている訳ではありませんが、仮にアタッシュケース1杯分での高額現金での出国や入国をした人がいればX線検査で分かり、恐らく税関で足止めを食っていたことと、思われます。

余談ですが、中国では偽札が多く、私も100元札と20元札だったと思いますが、2回ほど偽札を掴(つか)まされました。(20元札は、タクシーのお釣りでした。)   今100元の偽札を1枚日本に持って来ていますが、日本人の私にはどちらが本物か中々見分けがつきません。

中国人の仲間は、手触りや紙幣を斜めに見る等して本物かどうかを確認していましたし、また殆んどの店舗では、偽札判別機を置いていました。                                                       この様に余りに偽札が多いことが、紅銀線と金箔を使った100元の新札を発行する動機になった様ですが、元の偽札造幣は北朝鮮が、偽米ドル札と同じく、国策として行っていると言う話もあり、イタチごっこの感じは否めません。

ただ最近は、多額の現金を持ち歩かなくて良く、こうした偽札を掴まない効果もある為か、デビットカード(カードを使用すると同時に自分の銀行口座から使用した金額の引去りを受ける)を使った支払いが急速に普及し、主流になっています。

(4)イレギュラーな元の持出し方法

この方法は、偶々ネットで見つけた方法ですが、中国人が多額の資金を海外に送金させる場合に利用している方法です。(中国で生活する日本人も同様なことが出来るかどうかは分かりませんが、 出国時に中国の税関で引っかかる様な感じもします。少額でのトライアルで確認するのも方法です。)  この方法では、旧ポルトガルの植民地だったマカオと旧イギリスの植民地だった香港とを上手く使い分けています。2つの旧植民地とも、現在中国の支配下にあるものの、まだ中国の中央政府が国内並みに統治しにくい現状にあり、資金流出の抜け道としてなっています。しかし中央政府の圧力が強まり、いずれ厳格な為替管理に変容していくものと思われます。

マカオは、カジノが設置されて世界的に有名です。カジノで遊ぶと言う建前で中国国内から多額の現金を持ち出国します。マカオであれば、出国と入国の2つの税関で多額の現金を手持ちしていることを理由に、足止めを食うことはありません。カジノでの遊びと見せかける為、マカオに着いたら1~2泊して、それから飛行機で香港に入ります。(特に中国本土に戻った時、マカオでギャンブルして遊んだことの証拠としてパスポートに押印が記録されるため、中国の税関で説明がし易い。)

中国の一部ではあるけれども、特別行政区である香港は、中国元とは別の通貨制度を維持しています。基軸通貨である香港ドルは、国際的に兌換(交換)可能で、かつ流通可能な国際通貨です。その理由は、次の通りです。

[ 香港ドルの通貨レートを米ドルと連動させるペッグ制(固定相場制)を採用。言い換えると香港金融管理局の指導の下、 ①米ドルと香港ドルとを連動させること。②香港に流通する香港ドルに見合っただけの米ドルを香港の中央銀行たる3行(香港上海銀行、スタンダードチャータード銀行、香港中国銀行)が保有する。この2点を保つことで、香港ドルの信用を担保している訳です。

因みに実際に香港に行かれ、香港ドルに両替された方はお分かりかと思いますが、日銀が発行するだけの日本と異なり、同じ単位の香港ドル紙幣でも、それぞれ3行の名前が記された異なった紙幣が流通しており、何となく違和感を感じます。 

香港がこの様に、ドルの後ろ盾を持ち、国際金融市場として成長して来た訳ですから、どの様な人間がどの様な通貨を香港に持込み何処の国の通貨に交換しようと、また間に香港ドルを介しないでどこの国に幾ら送金しようと、前に書いた2点が保たれている限り、香港政府(香港金融管理局)が介入することはあり得ません。

ですから香港の税関では、多額の中国元を持ち込んだことを理由に、足止めを食うことは無いでしょう。逆に今の中国本土の様なことをしていると、香港は国際金融市場としての地位は保てません。

香港の税関を通過したら、外資系の銀行に口座を開設し、自分が好きなだけ海外送金することが可能です。(ただし香港での銀行口座開設時に必要とする書類は、事前確認していた方が無難。何れにしても金融で生きている都市なので、口座開設や送金は非常に簡単と思われます。)

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