技術流出(2)  

(1)金型職人の転職

改革開放路線に舵を切った鄧小平の指示により、1980年香港から近い場所に、深圳経済特区がつくられました。                                  工業団地として必要な港湾整備,水,電気,道路網,通信網などのインフラ、税制優遇策を整え、 国を挙げての内外の企業誘致を積極的に行なった結果、中国でも有数の工業地帯に成長しました。

ヨーロッパやアメリカ企業に負けてはならじと、日本からも大小無数の企業がこぞって深圳地区への進出を計りました。                              その進出企業の社員の中には、当然のことながら金型を作る職人もいました。

製品を大量生産する時、製品製造の基となる金型の良し悪しが、出来上がる製品の優劣を決めることことから、良い金型を作ることが出来る職人は、引く手数多(あまた)の状態です。  折角日本企業が進出しても、現地で高給で引き抜かれるケースが多発していました。

ある職人は、日本では格別評価されることもなく、また給与面の待遇もそれほど良くなかったため、声を掛けられた中国企業に転身して行ったそうです。               その場合、年収1000万円以上を保証し、運転手付きの車も提供されました。        中には通訳や雑用をこなすため女性秘書まで付いていて、社長気分で心地よく働ける環境でした。

その職人は、自身で金型を作ると同時に、転職先の中国人社員に金型の作り方を指導しました。                                        当然のことながら、日本の職人は金型だけではなく、前後の行程のことも知っていることから、製造に付随する技術や製造上のノーハウがどんどん漏れ出て行きます。                       また転職した職人が、日本の仲間にも声を掛け中国への就職をあっせんしている状況で、日本の蓄積された技術がどんどん吸い取られている状態です。

日本企業にとっては、現地の安い人件費で製造コストを下げる目的と、輸入税を回避し中国市場への販売競争力を高めることを目的として進出した訳ですが、他方中国企業による日本人技術者の引き抜きと引き抜かれた技術者が提供するノーハウ蓄積により、日本の製造業の衰退も早まったと思われます。

一方アメリカで開発・販売された3D(3次元)プリンターが、中国企業でも現実に、製品化の手段として使用され始めています。更に高度な使用法が企業ベースでも研究されており、近い将来金型を作る必要性がなく、生産できるものも益々増えるものと思われます。

3Dプリンターについては、下記をご覧ください。https://ja.wikipedia.org/wiki/3D%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC

例えば、発売前のある新製品をパーッ単位まで分解し、スマホで幾つかの方向から写真を撮り、これをデーター化し3Dプリンターに繋ぐことで、素材が分かれば、同じものを作ることも可能です。                                     即ちスマホ等を使い写真で盗撮されると、機密が盗まれ新製品が再現される。この事は強度や耐熱性など他の要素もあり、全てソックリ可能という訳ではありませんが、中国企業のスパイの道具として、今後使われる可能性もあると考えます。

(2)税関検査での危うさ

日本から機械を輸出する時、必ず中国税関で足止めを食らいます。他の所でも書きましたが、私が日本から大した機械でもない「たこ焼機」を運搬するだけでもかなりの時間を要し記憶が多少あやふやですが、全部で2ヶ月以上はかかったと思われます。私が税関に出向き担当者とコンタクトを取り始めてから、中国の私の手元に届くまでだけでも、1ヶ月前後要しました。 (税関職員は、何とか私に受取りを諦めさせ、横取りしょうとした節もありました。)

税関の担当者からは最後の方で、所定の税額や1ヶ月にわたる空港保管料以外に、賄賂と思われる領収書を発行しないものまで、正規の支払金額に上乗せして、要求されました。

税関の審査のため先方からは、見積書&領収書, パンフレット, 取扱説明書のみならず、金属の成分表や図面の提出まで要求されました。                         中には、中国語への翻訳を要求されるものもありました。
私が要求された品々は、多くの日本企業が同じ様な対応を要求されているのではないかと思われます。

中国のスーパーでも「出前一丁」や「チャルメラ」の様な日本企業のラーメンが現地で製造され販売されていますが、麵だけを比較しても日本で食べるほど美味しくありません。    美味しくないため余り売れてはいなく、目に留まりやすい位置ではなく、ラーメンの販売コーナーでも、腰を屈めないと取り難い端の方に置かれていました。

当時私は、たこ焼きに使用する小麦を纏めて仕入れることを考え、青島や上海の日清製粉の人とコンタクトをとっていた時、この件について聞いて見たのですが、『日本から麺の製造機械を持ち込めないため、仕方なく中国製の製造機械を使わざるを得ない。          このことが、美味しくない原因ではないか。』と言っていました。

私のケースの場合だけを見ても、あらゆる機械の製造上・運転上のノーハウの提供を求められましたが、本来税関が税額を決定する、或いは輸入を許可するか許可しないかの判断材料として書類の提出を求められますが、実際はそれ以上の情報提供を強要されました。                 このことから、国策として技術やノーハウのタダ取り、乃至税関職員のアルバイト(情報の国内転売用)として利用されている可能性が大きいと推察します。

外国からの機械輸入は新品に限り、必ずかなりの高額な税金や賄賂を納めなければ中国に持ち込めませんが、逆に中国企業が海外に輸出する場合は、中国企業に対し輸出の助成金が出ていますので、中国がWTO(自由貿易促進を主たる目的として創設された国際機関)に加盟しているにも関わらず、 不公平感は拭えません。

(3)相見積時の危うさ(特許、ノーハウ等のタダ取り)

30年以上の前の話で恐縮ですが、中国人の考え方は基本的には変わらないと思いますので、 私が勤めていた会社の同僚から聞いた話を書きます。

彼は、中国へエネルギーインフラ関連の機器の輸出に関する仕事をしていました。中国側は複数の日本企業のみならず、フランス企業等にも声を掛けて、相見積を取ったそうです。

当然見積の根拠となる資料,図面,データーを添付し見積書を提出する訳ですが、相手は注文するメーカーを決定前の段階で、通常は契約締結後に提出する膨大な量の資料や図面の提出を要求して来たそうです。当時は各社とも受注に向けての熾烈な競争の中でもあり、中国側は要求を渋ると逸注を匂わせたため、相手の要求に応じざるを得なかった様です。

話の中で驚いたのは、提出した見積額に対して、他の外国企業への要求値引率が3割程度に留まったのに対して、日本の企業へは7割引きの要求をして来たそうです。

【日本側が支払う太平洋戦争の賠償金は、事前に台湾の国民党政権との間に結んだ日華基本条約での賠償金の放棄を盾に、周恩来を相手に当時の外務省の高島条約局長が強い態度で交渉したため、日中平和友好条約での賠償金も放棄となりました。】

中国政府関係者の多くは、韓国に倣って多額の賠償金を日本から取れなかったことを悔やんでいたためか、提出した見積額の7割引きの根拠として、日本の企業には戦後の賠償を口にしたそうです。

度重なる調整の結果、どの程度の値引き率で決着したのか不明ですが、結局プラントの機器として受注した様でした。

しかし一つの仕事であっても、計り知れない程多量の情報流出につながったことでしょう。 他の失注した会社は、かなりの量の資料,図面,データー等が、タダ取りされたことと思われます。

中国で最初の高速鉄道のシステムは、ドイツと日本とフランスが火花を散らし、受注活動を行いましたが、結局日本とドイツが仕事を2分する形で決着しました。業者決定に至る迄、受注後から全体の完成迄、運航開始から開始後における多種多様な情報を、中国政府の保護の下、3ヶ国の先進企業から情報を入手した中国鉄道メーカー各社は、いち早く国内の高速鉄道網を作り上げる中で、最先端技術を消化してしまいました。

海外メーカーが所有する革新的な技術基盤である特許権は、契約締結時の使用権も含め全て購入したと言い訳し、輸出に力を注いでいます。

【中国人が相手だと、契約書の内容が無視されることも普通だと考えたほうが良い。国際的な機関に持ち込めば、勝つ見込みはあると思われるが、国際司法裁判所の様な所で対処してくれるかどうかは分からない。                               中国国内で裁判に持ち込んでも、時間がかかり、まず勝つ見込みは非常に薄い。】

そして皆さんもご存知の様に、中国は日本と競い、短い区間とは言えインドネシアの新幹線工事を受注しましたが、中国国内と異なり居住者へ強制的な立退きを迫れない事、政府間の資金調達の再調整等でトラブルとなって、工事が大幅に遅れています。

逆にインドでは政治的な判断もあり、日本が中国に競り勝ちました。           しかし中国側が出した安い見積額に引っ張られ、今後値引要求が激しくなることが予想され、その兆候もインド要人の発言から見て取れます。

また習近平が提唱した『一帯一路』の経済圏構想において『一路』の部分では、高速鉄道は 重要なインフラと位置付けられております。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E5%B8%AF%E4%B8%80%E8%B7%AF

中国政府からの売込国への政治的な圧力や資金サポートに加え、敷設費・運営費が安く、砂漠から大雪の地迄の多方面にわたる地理的条件で経験を積んで来ている中国の高速鉄道技術は、侮りがたいと思われます。                                      国が広く直線の線路を長く敷設できると言う有利さもありますが、商業ベースで時速320Kmを超えるスピードはギネスの記録にもなっている様で、世界での商戦においても大きなアピールになり、今後益々日本との競争が激しくなるものと思われます。

結果的に、中国での高速鉄道の受注に参加したドイツ、日本は、タイでエビを釣ったことになり、逆にエビでタイを釣ったのは中国だけということになりました。フランスは、タイを全て掠(かす)め取られ、釣りあげる物がないだけで終りました。

(4)技術窃盗のパターン

中国、韓国では、次の様な方法で長年日本の技術を窃盗して来ました。

①売れ筋の製品を購入・解体し、部品メーカーやコストを徹底的に調査。この方法は、昔の日本の自動車産業なとが、アメリカの自動車製造技術に追いつくために取った方法で、日本も他国を非難できない。

②韓国の会社は、日本の人材派遣会社や仕事上の取引等を通し、鍵となるコア技術を持った人を高給で雇用して来たケースが多い。                         中国の会社は、中国へ進出して来た日系メーカーの社員に声を掛けて、高給で雇用するケースが多い。
転職を約束された日本人技術者は、会社の機密情報を手土産に持ち出していますが、大半が数年で使い捨てられ、退職させられている様です。

③日本の特許庁が管理する製品に関わる特許情報は、インターネットで誰でも無料で検索出来る。
しかしながら日本の新製品(例えば、空気清浄機)などに関する特許情報については、特に中国、韓国の2か国からのインターネットでの検索数は、群を抜いています。        日本メーカーは、主に国内のライバル企業の技術に抵触しない様にする為に、特許情報を活用しますが、中韓の企業は、躊躇なく全情報を入手し、日本の各メーカー技術の良いとこ取りで、競争力のある製品の製造に結び付けています。                   また国内での人件費の安さから、大半が日本企業の1/2以下の定価設定が可能で、販売でも競争力を発揮しています。

④中国では、小学生の時から学校での思想教育が徹底しており、全ての大学で共産主義に関する思想関連科目の単位を取らないと、卒業できない仕組みになっています。        また中国国内では、就職が難しい現状から、欧米や日本の一流大学や大学院に留学し、その国で就職する人が増えています。
特に優秀な人ほど、最先端の国家研究機関や一流会社の研究所への就職する機会も増えていて、その人たちの多くは、通常はスパイではなく熱心な研究者です。           しかし勤務した研究組織で、非常に研究価値が高く革新的な技術で莫大な利益を産むもの、 或いは極秘の企業情報や、一部軍事情報に接すると言う機会も増えつつあります。     元々中国からの留学生は、昔の軍国主義時代の日本同様、小学校入学時からの長年にわたる『お国の為に貢献する。』と言う教育が染みついており、ある日突然スパイとなるということも、雇用する機関や企業は覚悟するべきであると考えます。

本来新製品の開発には優秀な人材と開発費と多くの時間を必要としますが、中韓企業は何も努力せず、楽して安価に生産することに特化して来ました。(特許庁の対応のまずさも、あります。)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170620-00010000-agrinews-pol

の様な腹立たしい事実もあります。

また、この様な記事も見つけました。

https://www.cnn.co.jp/world/35051021.html                    他に私が市場に出かけても、中国でもコシヒカリの日本の銘柄米が幅広く栽培されているのでしょう、沢山売られている事などからして、これらの記事は恐らく氷山の一角かと思われます。

苦労して開発した日本の最新技術が詰まった苗木を窃盗し、自国の商品として安く販売する。次の段階では窃盗した苗木に、自国で他社の技術或いは自社で開発した技術を接ぎ木をして、更に良い製品、売れる製品を作り販売する。                      安価ではあるが、市場に無い新しい商品の為、沢山売れることから、多くの果実を得られる。

この様な方法を採られたら、苗木を作ることで苦労した日本のメーカーは、果実を収穫する時期には、中韓企業に一番美味しい果実を奪われている、こんなことの繰り返しではなかったかと思われます。(『サルかに合戦』の「さる」が中韓企業なら、「かに」は日本です)

この繰り返しが、日本企業の開発資金不足や工場投資資金不足を生み、開発者の開発意欲をそぎ、益々企業の弱体化に拍車がかかっているのでは無いかと、危惧致します。

更に悪いことに、接ぎ木した苗木の生命力は強靭で、スーパーコンピューター、スマホやパソコンでは、既に日本の技術の方が遅れてきてているばかりか、差がより大きくなりつつあるのではないかと、思われます。

技術窃盗の排除(特許の遵守)のため、世界的に認められた調停や決定機関の整備が急務だと思われますが、言葉の問題、十分な証拠、時間と費用の問題もあり、国と国の争いを仲裁する国際司法裁判所の様な組織が仮に出来たとしても、問題解決までの困難が予想されます。

ただ一度(ひとたび)中国が、世界において技術の優位性を確保してしまうと、将来にわたる 自国の技術の優位性を保つため、中国政府として、特許の管理に力を注ぐと共に監視体制を整え、外国企業の特許侵害に対する国内裁判所への提訴や中国市場からの締め出しに全力を注ぐものと思われます。(自分たちがやって来た技術窃盗を、他国の企業が行うことは決して容認しないでしょう。)

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