北京同仁堂

成都市で一番賑やかな商店街は、春熙路(チェンシール)という所です。

一流ホテルや日本の伊勢丹、イトーヨーカー堂、王府井(ワン フーチン)等のデパートからグッチ、セリーヌ、ロンジン等の外国の一流品の店舗等も目立ちます。

銀座の車道を含め全て歩行者天国にするのと同じくらい幅広い歩道の両側には、これらのデパートや宝飾店、洋服店等が軒を並べ、観光客をはじめ遊びや買い物で多くの若者が訪れ、街は、ネオンの明かりが消える夜遅くまで賑わっています。

私は、リョウさんとリョウさんの彼女イエさんの3人で、伊勢丹の上層階にある和幸(千葉の豚カツ屋)でランチを食べ、ブラブラと街を歩きました。歩道街の端に来たところで、目の前に大きな車道がありその先の歩道には、『北京同仁堂』という目立つ看板の店が目に入りました。

リョウさんに聞いたところ、その店は、本店が北京にある漢方薬の店という事が分かりました。                                        私は今特に、特定の漢方薬が必要という訳では無かったですが、漢方薬と言えば中国が本場なので、一体どんなものをどの様に販売しているのか好奇心もあり、2人を誘い店の中に入りました。

店は宝石店の様に、腰の高さ前後のガラスのショーウィンドゥを上から覗き込む様な形でしたが、動植物を乾燥させたもの、朝鮮ニンジンの様にアルコールの様なものに漬けたものなどが売られていました。ただ素人の私には、何が売られているのか、全く分かりません。    雰囲気からして、サルノコシカケや冬虫夏草もあり、飾られていた品は高いものだと想像されますが、値段は表示が無く分かりませんでした。

100坪前後の1階フロアーには、私達以外に全くお客がいなく、閑散としていました。    間仕切りが全くないため、フロアー全体を見回すことが出来ますが、店員も暇を持て余し気味で、とても非常に静かな雰囲気でした。店内を見回し、目が行った先に、映画『風と共に去りぬ』の南北戦争当時のアメリカの南部の家の様に、3m前後の幅広い緩やかな、螺旋階段があることに気が付きました。店員は、私が登るのを遮(さえぎ)る様子もない為、2人を誘い階段を上がりました。

2階に上がると直ぐ目についたのが、足や肩をマッサージする健康機具でした。      それから、日本のオムロンの小型の血圧計等の小さな計測器も、1階に置いてあるのと同じ タイプのガラスのショーウインドゥの中に置かれていました。              じっくり時間を掛けて見なかった為、具体的には思い出せませんが、意外と最新式の健康機具類がいろいろ置かれていました。

そのコーナーから先は、人々の話す声が喧(やかま)しいくらいに響き渡っていて、とても静かな1階から繋がった店には、思えませんでした。                    そこは、中医(漢方薬を中心に処方する)の病院でした。                 長椅子に掛けたり、立ちながら雑談する人など待っている患者の数は、30~40人程いました。

2階の病院の広さは、50坪前後だと思われます。フロアーには3~4の個室があり、それぞれの個室に医者1人が待機して、患者からの病状の聞き取りながら所定用紙に処方箋を作り上げています。                                      医者自身聴診器も持たないので、洋服を脱ぐわけでもないため、入口のドアは半開きになっている部屋もあります。一応診察が終わったら、患者は処方箋を貰い、部屋を出たら向かい側の調薬コーナーにある指定の箱に処方箋を入れて出来上がるのを待ちます。

私も、診察してもらうことにしましたが、診察する医師のランクで診察料が違うことが分かりました。確か、通常20元前後の診察料が、それより10元か15元高かったと思います。一番値段の高い医者に診てもらう事としました。その医師は、経験豊かという事でしょう。歳取った医者でした。

持病に加え、(一時帰国時の健康診断結果も良くなかった為)糖尿病の予備群であること等を話しましたが、話をする毎に処方箋の用紙に投薬の種類を書き込んでいました。                    そして出来上がった処方箋を貰い、他の患者と同じ様に所定の箱に入れて、調薬(漢方薬の調合)が出来上がるのを待合の長椅子に座り待ちました。

日本で言う薬剤師の人は、3人いましたが、3人とも壁と前面の幅1.5m×高さ1m×長さ15m(10mと5mの地点でL字に曲がっていた。)程度のテーブルで囲まれた狭い幅1m程度の通路を激しく動き回っていました。

何をやっているかというと、L字に曲がった壁には、横50cm×縦20cm×奥行?cm程度の箱が壁一面に備わっており、その中に漢方薬が入っていました。引出しの箱の数は数えなかった為不明ですが100個近くあったと思います。また引出しの箱の中には、複数の漢方薬を更に細かく区切って入れていたかも知れません。                        これを3人の調薬士が、自分が受け取った処方箋の調薬に合わせ、目まぐるしくあちこちの箱を空けて漢方薬を取出し、これを天秤ばかりに載せ指定量を白い紙の上に乗せる作業を繰り返しています。

作業の機敏さが余りにすごく、3人とも分銅を付けた天秤ばかりでの計測の時間が余りに短いので、いい加減な感じがしないでもありません。                    しかし、長年に経験に基づくものでしょうから、間違いは無いのでしょう。        天秤ばかりは薬を処方するという事で、私たちが幼いころに見たものと比べると、棒の長さが20cm程度でかなり小さいものですが、使用頻度は低いものの40cm程度の少し大きめのものも、テーブルの上に置いてあります。

私も30分ほど待ち、調薬された漢方薬を受取りましたが、確か1500元近いお金を払いました。またそのままでは飲めなく、漢方薬を土鍋に入れ煮出す時間、火の強さ、入れる水の量から土鍋の購入先など分からないため、リョウさんに一通り聞いて貰い、それを私のマンションの掃除の家政婦さんに説明して貰い、纏まった量を何回かに分けて作って貰う事としました。

口の中に苦みが残りつつも我慢し、毎日継続して決まった量を飲んでいましたが、新薬と異なり飲んだからと言って私自身何も変わりませんでした。

1ヶ月もしない20日程過ぎた後だったと思いますが、薬が無くなったので、再度北京同仁堂の2階に出向き、同じ医者から薬を出して貰おうとしました。

その時は、日本に一時帰国する1ヶ月ほど前だったのですが、老人の医師から、根拠もハッキリしないのに、頭の血管が詰まり気味なので日本で脳検査をして貰った方が良いと言われました。私は、今まで特別に脳検査をしたことはありませんでした。

定期健康診断結果を見る限り、むしろ血圧が低い方なので、頭の血管が詰まったり、破れる可能性は低いと思っていましたが、ともかく日本に戻ったら見て貰おうと思いました。

中医の先生は、前回より私に聞くことが少ないにもかかわらず、処方箋の用紙に次から次へと書き加えていくのが、少し気になりました。処方箋が出来上がり、調薬の方に処方箋を持って行き待っていると、とんでもない事実に気が付きました。

他の患者さんは、調合で載せる白い紙の大きさが新聞紙1面程度なのに、私の白い紙は、新聞紙2面程になります。その時、L字になった長いテーブルの上に置かれている白い紙は10枚ほどありましたが、新聞紙2面程の大きさのものは、私の分だけです。積みあがった漢方薬の高さは25~30cmにもなりました。

         私は、『やられた。』と思いました。

日本人は金があると老医者は判断し、可能な限りの漢方薬を調合し、私に売りつけようとした訳です。日本の場合、医師が月給制で一定であるのに対し、恐らく投薬の売上の何割かは、直接老医師の収入となるのでしょう。                                                                          桂林で、じん帯の罅(ひび)割れを1回80元で治療して呉れた老医師とは大違いです。

その時私は会計で3500元程支払いましたが、これで目が覚め、ここに通うことを止めました。ただ、購入した分の漢方薬は、家政婦さんに煮汁を作って貰い全て飲みました。また日本に帰国後、脳の血管の検査をして貰いましたが、全く異常は、見つかりませんでした。

私の知る限り、今回の件もそうですが、人を騙すことにおいて、若い人より老人の方が警戒したほうが良いと思われます。                             年取っている分ノウハウも多く、人を騙すことに長けている様です。

以前「桂林便り-私が見た光景(桂林便り5)」にも書きましたが、保育園に両親が忙しく迎えに行けないから、老父母の自分達が迎えに来たと言って、堂々と園児を連れ去る誘拐もありました。

横断歩道が遠い為、横断歩道でない場所を横切ろうとした老婆が車にはねられましたが、誰も助けようとしませんでした。                              上半身は大丈夫だったようですが、起き上がれませんでした。              この交通事故に遭い助けを求めている老婆に気が付いた人が、車を降り病院に担ぎ込み治療して貰い、更にその費用まで負担してあげたそうです。

しかしその老婆は、感謝するどころか、病院に担ぎ込んだ人が自分を車で跳ねた人間として、警察に訴えた出たという事で、事件を裁判にして多額の現金を巻き上げたという事件があったそうです。助けた人が老女を跳ねた犯人では無いことを証明する人が、誰も名乗り出て来なかった為、老女の訴えが真実として採用されたそうです。                 この事件がマスコミを通じて広がったことで、益々道路などで怪我した人を助けると言うことが無くなったそうです。

中国では、警官、役人、坊主、裁判官、学校の先生等、押並べて、お金が全ての世の中に変質して行っていると仲間は言っています。

また思いやりや同情心からの行動が、逆に足をすくわれる様な世の中では、この国は、人を信じることが出来ない不毛の国にしか思えません。

(Visited 1,911 times, 1 visits today)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする