石蜜(せきみつ)の話

桂林の暑い夏の夜、一人中心街に出かけました。

ニコニコ(微笑)堂のデパートを過ぎ、中央広場の方に曲がった角の歩行者専用道路脇に、ゴザを敷き、全体として黄色っぽく、あちこち周囲に土やコケが付いた一辺が30cm程度の大きなゴツゴツした石を売っている老人がいました。

私は特に当てがある訳でもなく、ブラブラとしていたものですから、小さな腰掛に座り、鉄の分銅を吊るした天秤ばかりを所在無さそうに持った、その老人に声を掛けました。                 その老人は、田舎から出て来た人に思えました。

『その石は、なんですか ?』

すると、「百見は一食に如かず」と、いう事でしょう。                                                  黄色い小さな石の欠片(かけら)をくれ、口に入れろと言います。

私が口に入れたところ、何とも言えない本当に素朴な甘い味がしました。                          味について例える物が無いため、どんな味か言いづらいのですが、日本で入手可能な砂糖や氷砂糖とは、明らかに違いました。生まれて初めての経験でもあり、明日職場に持っていこうと思い、少し購入する事にしました。

ハンマーと小さなタガネを使い、端の方を分けて呉れましたが、硬さは岩と同じくらい硬い石でした。                                      支払った金額は忘れましたが、周囲の人も殆ど買っていないことから、それなりの金額がしたものと思います。

天秤ばかりで重さをはかる時、私も量を騙されるのは嫌だと考え、分からないなりに分銅のひもを左にずらせ、こぶし大の石の方が重く、分銅を付けた天秤棒がより上がる様にして、目盛りを確認し、お金を支払いました。(実際の所、1目盛りが何グラムになるのか全く分かりませんでしたが。)

翌日小分けにしたものを職場で仲間に配り、この石が何なのか聞きましたが、誰も知りません。周りも興味津々(しんしん)で、いろいろ話が盛り上がりました。

そこへ社長と仲良しのショウさんという人が来て、これは石蜜(せきみつ)に違いないと言います。石蜜はミネラル成分が多く、漢方薬の材料として使われているとのこと。

元々ミツバチが、大きな木の穴が開いた部分や岩の隙間に作った巣で、何世代にもわたり同じ場所に巣を作ることから、蜜があふれ出て岩や土と混ざり、かなりの時間を掛けて固まったものとのことでした。

山岳地帯を多く持つ雲南省の田舎では、観光客向けにもしばしば売られていると、ガイド経験があるシヨウさんが説明して呉れました。

そのままでも勿論口の中に入れても良いが、白湯(さゆ)やお茶の中に粉にしたものを入れて飲んでも良いとのことでした。                             ただどこにでも産出する様な物では無く、非常に貴重な物らしく、ショウさんでも、本物の石蜜の味を知らないという事でした。                          ですから彼自身も、私が持参したものが本物かどうか、判別がつきませんでした。

→ 石蜜の写真

インターネットの写真では、沢山の石蜜の写真を見ることが出来ますが、果たしてこの中にどれ程の本物の石蜜があるのか、非常に疑わしいと思われます。

説明が容易な様に、わざとらしくミツバチの巣そのものが入った石や小さな昆虫が封入された石も散見されますが、これは明らかに人為的に作ったもので偽物だと思われます。

希少価値から値段が高いだけに石蜜の偽物も多いと思われますが、それを判別出来る人も限られていることでしょうから、味見程度に留めておいた方が、無難かも知れません。

日本ではどうして石蜜が見つからないのかというと、在来のハチである和バチは外来のミツバチに比べ一回り小さく、集蜜力も1/5~1/6と言われること(1匹の働き蜂が一生の間に集める量は小さいスプーン一杯と言われています。)、群蜂数も半分以下などから、巣を単位として集められる蜜の量も、非常に少ない様です。                        それから和バチは、一か所に留まらず巣営場所をしばしば変えることも、石蜜が作れない理由と思われます。

私が口に入れた欠片(かけら)はひょっとしたら偽物かも知れませんが、甘い石、石蜜と言う生まれて初めて味わった味でもあり、非常に興奮しましたが、同時に良い思い出にもなりました。

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