■豆乳ドリンク店
ご存知の方も多いと思いますが、豆乳は大豆を水に浸してすりつぶし、水を加えて煮つめた汁を漉(こ)した飲料です。見た目は、牛乳に似ていますが、味は大豆特有の青臭さが口に残ります。
黄さんが、一緒に豆乳のドリンク店を桂林の中心街で開かないかと、提案されました。 八里店(桂林の中心街からバスで1時間以上離れた場所)で、黄さんの妹が店を出しているから見て欲しいと言われ、行きました。
カウンター内に1台の機械、他にテーブル・イスが置かれていましたが、余り流行っている感じはしませんでした。 私が桂林に行った当時は、豆乳が健康増進の万能薬みたいな雰囲気があり、ちょっとしたブームとなっていました。
桂林の中心街でも、何店舗も豆乳ドリンク店があり、大人気でした。
日本でも随分前の事ですが、「イソフラボン」がどうとか言って、一時ブームになったことがありましたが、あれと同じです。私からすると、10年程度遅れて来たブームでしかなく、また私自身、豆乳の匂いが好きになれないこともあり、直ぐに断りました。
■蛇の養殖
日本では、この養殖をやっている所は、まず無いと思います。彼が植木のレンタルでいろんな店に出入りする中で、料理店主から聞いた情報の様でした。
今まで私が出入りした桂林の料理店では全く見かけなかったのですが、彼の後について彼の客である料理店の勝手口の方に来ると、ハクビシンやハトや*山ネズミなどと同じく、ケージに入った蛇を見かけました。
*「山ネズミ」は、私たちが知る「どぶネズミ」とは異なります。 私自身、食べたことはありませんが、多くの中国人の話では、非常においしいとのことで、大きさからすると値段も高い様です。鶏より、山ネズミの方が美味しいと多くの人が言います。
細かい数字は忘れましたが、彼の話では、蛇は高級食材なので料理店に高く売れる事、特に冬の時期はスープとしてのニーズが高まる上、蛇の出荷量が少ないため、より高く売れると言う事でした。
彼は、『蛇の養殖を隣の省の広東省で、桂林の友人と行うことを計画している。広東省で雇用する作業員や仕入の費用等で資金が不足するため、私に出資して欲しい。』というのが、彼の主旨でした。
参考迄に、蛇スープ(広東式)のウイッキペディアの記事を以下に、そのままコピーしました。
中国料理の中でも特に広東料理は、伝統的に蛇を食材として使用しており、広州や香港には、蛇専門の食材店や料理店がある。中国料理としての蛇スープは、一般的な中華スープ同様に、さらっとした湯(タン)と、とろっとした羮(カン)に大きく分かれる。
広東の蛇スープも両方あるが、有名なのは「羮」の方であり、「蛇羮」(ショーカン。広東語でセーカン)と呼ばれる。冬眠前の蛇は脂が乗って美味と言われ、「蛇羮」を秋に食べると一冬風邪をひかないと言われている。
薬味として、菊の花びら、レモンの葉の細切り、小麦粉をこねて薄く揚げた「薄脆 ボクチョイ」と呼ばれるクラッカーを加えて食べる。
香港の蛇食材店の多くは市場にあり、店頭で気軽に「蛇羮」を食べられるようにしている。
太史五蛇羹
私は蛇が大嫌いで、蛇を見ただけで身震いするたちの為、例え資金だけであっても、即座に断りました。その後、彼に経過を聞いたところ、友人と一緒に広東省の某所のプールで養殖を始めたという事でした。
蛇は都度養殖場の近くの山や畑で捕った人から、1匹幾らで買い上げ、それを太らせて冬に売る予定で進めていたそうです。
しかし、地球規模の異常気象の影響かも知れません。あいにく養殖を始めた最初の年、広東省も冬に入り気温が大きく低下する中で、養殖の蛇が、かなり死んでしまったそうです。 また生き残った蛇も、寒さで食が細く太ら無いため売り物には出来なく、結局は養殖事業から撤退したとの話でした。
■レアアースの採掘
この話に入る前に、予備知識として、レアメタルとレアアースとの関係について説明致します。
レアメタル(希少金属)は、ネットで調べたものを纏めると次の通りです。
①非鉄金属のうち、様々な理由から産業界での流通量・使用量が少なく希少な金属のこと。
②レアメタルは非鉄金属全体を呼ぶ場合もあるが、狭く絞って考えると、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等の常用金属や金、銀などの貴金属以外の産業に利用されている通商産業省が指定した47種の非鉄金属を指す。
③レアメタルは、強度を増したり錆びにくくする構造材料への添加材として、また発光ダイオードや電池、永久磁石などの電子・磁石材料として、さらには光触媒やニューガラスなどの機能性材料として、用途は多岐に渡り、現代社会では非常に重要な元素。
一方レアアース(希土類元素)は、
①レアメタル47種の元素の内の、17元素を特に示します。つまりレアアースは、レアメタルの一部なのです。
②ハイブリッド車のバッテリー、風力発電機、光ファイバー通信、太陽光パネルなどに欠かせない素材。
更に、中国におけるレアアースの状況を纏めると次の通りです。
①世界の埋蔵量の37%にあたる3600万トンをもつ中国は、これまで世界の供給量の96%を占めていた。
この様に中国は世界で必要とされるレアアースの大半を生産している一方で、中国国内では貴重なレアアースを「安売り」しているという批判が根強かった。
中国がレアアースを安売りせざるを得ない理由は、中国にはレアアースを精製・抽出し、加工する技術力が不足しているため、付加価値の低い状態で輸出していることも「独占的な利益」を得られていない。
②『中東に石油あり。中国にレアアースあり。』とは、鄧小平が言った言葉です。 中国は、世界でのレアアースの価格決定の主導権を握ることを目的に、2009年4月に「国内産業の保護」を打ち出し、レアアースの輸出制限を実施した。
更に2010年に発生した中国との尖閣諸島領有をめぐる紛争を契機に更に輸出制限を強化し日本へ圧力を強めた。
③江西省贛州市(かんしゅうし)と内モンゴル自治区包頭市(ぱおとうし)付近は、レアアースの採掘の中心地となっている。特に贛州市付近は、レアアースの中でもハイブリッド車に使われる「ジスプロシウム」の産地である。
④レアアース採掘現場では、1トンのレアアースを採掘するためには7、8トンの酸性の液体を注入している。採掘後の土は、周辺工場で分離されるため、周辺工場から17種類のレアアース廃水が排出されている。
水中には有毒元素が含まれているため、魚はおらず水草もほとんど絶えてしまっている。 汚染は非常に深刻で、野菜は全く育たなくなったため、工場付近のいくつかの村の村民は田畑を放棄している状況にある。更にレアアース抽出後の廃水に、多くの有害物質や放射性物質が含まれている。 フランスのル・モンド紙は、これらの物質が採掘現地で、すい臓がん、肺がん、白血病を引き起こしていると伝えている。
前置きが長くなりましたが、突然黄さんから、会って欲しい人がいると電話が掛かって来ました。数日後私が住んでいる近くの喫茶店に行くと、黄さんが親戚の兄さんと同じ村の人1人の計3人が待っていました。
黄さんから、事前にレアアースの事と聞いていたため、私も事前にネットで上記①~④程度の情報を入手して、話を聞きました。
先方の話を要約すると次の通りでした。
①黄さんの親戚の兄さんが住んでいる陽朔県の村には、レアアースの山がある。
近くの他の村では、既に山からレアアースを採掘している。
②山は国のものだが、採掘権は共同管理の形で村が所有している。
③九十九(つくも)さんか、九十九さんの友人が、採掘の為の資金を出してほしい。
私は、『 レアアースの鉱山開発は、放射性物質も出て来て、ガン等の健康被害が問題となっている。村の村長はじめ、村人は本当に開発を望んでいるのか ? 』と聞きました。
3人は、身近な鉱山でも現実に健康被害が発生していないことに加え、レアアースの取引価格が高騰していることから、近隣の採掘中の村の様に鉱山開発でお金が入り、村人が潤うことのメリットを強調しました。 私は、余りに期待感が強すぎて、これ以上の説明は無駄だと諦めました。
私は、日頃桂林で生活するうえで黄さんに世話になっている事、黄さんから誘われここにも書いていない、いろんなビジネスを全て断って来た事、今回の話は黄さんの面子も掛かっていることから、気が進まないものの、私の知人に当たって見ると約束し、その日の打合せを終えました。
私はしょうがないなと思いつつ、アメリカで原発建設の為大型のファンドを組んだり、南米で鉱山開発もやって来て現在フロリダ在住の日本人のOさんに声を掛けました。
Oさんについて知りたい方は、
http://www.discovernikkei.org/ja/journal/2015/10/27/kensuke-ozaki-1/
http://www.discovernikkei.org/ja/journal/2015/10/28/kensuke-ozaki-2/
を御覧ください。
彼自身、中国とインドネシアとの間の石炭の輸出入にも関わったことや、その他中国との取引の実績や人脈もあり最適だと考えました。
しかし、尖閣列島問題を契機として、特にレアアースなどの輸出制限圧力も大きくなっていることから、私は彼に否定的な投資話として伝えました。
Oさんからは、
①投資するかどうかの判断が出来ないので、レアアースがあることを示す成分表を送って
欲しい。
②レアアースをある程度、精製・分離する工場建設迄を望むのか、単に土を掻き出す程度
のことを望むのか、知りたい。
と質問が来ました。
私は、早速黄さんに話をして、桂林市の専門機関での分析結果の報告書を入手して、Oさんに報告しました。
また鉱山の開発では、大型の削岩機、大型トラック等の話は出て来たものの、精製・分析に関しては、誰も知識が無くあやふやな計画に終始しました。
この投資話が出てから、やり取りをするうちに、中国政府がレアアースを輸出する港を制限し、徹底的に輸出量を管理することが決まりました。
ということは、新規鉱山からの輸出は、指定された港の税関で弾かれ、輸出出来ない可能性が大きいと言うことです。
私は、早速黄さんにこの話を伝えると、彼の兄さんからの話として、『海がダメなら、監視が行き届かない陸路でタイに運び、そこから輸出する。』との回答でした。つまり大金の為なら、国境を越えて密輸出も厭(いと)わないと言う、強い意志を感じました。
上の表から分かる通り、運賃・輸送保険に加え日本の港での荷揚げする価格も含んではいますが、2010年の7,8月には、一番高い蛍光管やプリンターの印字ヘッドなどに使用されているテルビウムは1Kg5000$(1ドル100円としても50万円/kg) 、次に高価なジスプロシウムは35万円/kg迄高騰しています。(表が出ない場合は、最新の情報に更新をクリックして見て下さい。)
最初のグラフで単価が高いネオジム、プラセオジムは、これらの価格の1割程度になっています。
レアアース鉱山の岩石中に17元素のうち、最低10元素近くは採取した土の中に存在しますので、これらのレアメタルの合算と考えると宝の鉱山資源と言えるでしょう。
Oさんは分析結果を見て、高価でハイブリッド車に使われる「ジスプロシウム」の比率が高かったものですから、非常に興味を引いた様です。
村人からも、是非現地に来て山を見て欲しいと言われ、Oさんもアメリカから見に行く気持ちもあった様です。
私には、眼に見えない障壁が多すぎる様に思えた事、日に日に規制が厳しくなっていることを彼に話をして、最後は諦めて貰うことにしました。
この話が持ち上がって1年ぐらい後になりますが、いろんな精製レベルでの輸出品があり、港の税関での規制も困難だと判断したのか詳細は不明ですが、中国政府は最後には、多くの中小鉱山からの産出を中止させ、政府が承認する限られた鉱山にだけお墨付きを与え、輸出を承認する決定を下しました。
この決定が出たということは、私の中止した案で良かったと思っています。
まあ、こちらも真剣に検討したため、黄さんの顔を潰すことにはならなかったと思います。
その後、日本,EU,アメリカからのWTO提訴を受け、中国の輸出規制措置がWTO協定に違反することが確定し、2015年になってやっと輸出数量制限と輸出税を廃止としました。