落秋の頃

秋の夕べは みじかい。
あの茜色の 何とも表現し難き空は、
夏の陽の残照であろうか。

その光芒はどこにも満ち溢れ
小走りに行き交う人々の心にも映じている。
澱みない雑踏は、しばしの沈黙(しじま)となって
あまねく照らし出され、
陋巷(ろうこう)の中にも、人々は安らぎと言う言葉に
感じ入る。
またカフェテラスの饒舌な二人でさえも、
わずかな時間の余韻に酔い痴れ、
しばし言葉を忘れる。

人も、建物も、
そしてわずかばかりの街路樹も、
快活なその装いのうちに、すべてが浸っている。
潤っている。
いや、それ以上に、時の前に頭(こうべ)を垂れ、
祈りにも似た独白が、
改めて、自然と人工との調和を醸し出している。

しかし、・・・・・・。
その光芒も、目を逸らす一瞬にして、
あの、どんよりと哀調を帯びた鉛色の空へと転化する。

もはや人の心を驚かすものでは無い。
感慨の余韻すら打ち消し、
どこからとも知れない嘆きの流れに、
人々は、振り返る間もなく押し流される。

白くなった最後のひと葉は、
仕方なくその葉を地上に還元し、
建物の冷たき暗き影は、
我が心の淵に触れんとす。
今や、人の心にきびしく迫りくる冬の空である。(昭和49年/1974年 ビルの屋上から)

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