コスモスよ

20161127001

コスモスよ、
私が初めて、お前に出会ったのは、
私が子供のころ、庭の竹垣の中だった。
お前は、私の童心を掻き立てるかの様に、
庭の雑草のプリンセスたるを失わなかった。
お前は、実際美しかった。気品があった。
お前は、秋になるとあちこちから、
ホワイト、ピンクと言った具合に
私に顔を見せてくれた。
私は、お前の可憐で、純な姿に魅せられもした。

しかし、お前も私から次第に遠ざかって行った。
仲間の減少と共に。
庭の隅にでも自己主張してきたお前が、
全く見られなく、影も形も無くなったと気がついたのは、
ブロック垣の庭だった。
それと共に、私も現実の世界へと引き摺り込まれ、
お前の存在を今に至るまで忘れていた。

しかし私は、今日小倉の郊外でお前を見た。
だがお前は、私が子供の頃のお前ではなかった。
周りの雑草に遠慮して窮屈そうに、
丈低く、花だけは可憐であったけれど、
何かしら疲れているお前を見た。
ブルドーザーの騒音の中に消えゆくお前の運命を見た。
こんな姿のお前を見るなんて、
お前に会わない方が良かった。

しかし疲れたお前に会えたのは、
幼いころのイメージを強く私に与えてくれたからだ。
だからこそ、この暗い激動の世に、
希望という童心のイメージを私に与えてくれた様に、
お前の美しさを昔みたいに咲き誇り、
人々の疲れた心を癒しておくれ。

そしてコスモスよ
私をロマンチストと言わせておくれ。           (昭和45年/1970年)

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