畢福剣(ビー・フージエン)の話

先日、桂林の知人とスカイプで話をしていたところ、ビー・フ―ジェンの話が出て来ました。2015年4月、中国中央テレビ(CCTV)所属の人気司会者である畢福剣が、中央テレビの公式サイトから一瞬にしてプロフィールが削除され、停職処分が報じられました。       なぜなら私的な会食の席で毛沢東を批判した時の動画(革命現代京劇の題目※『智取威虎山』の一場面を風刺)がインターネット上に流出したことが原因だそうですが、 2年経た今も、彼は中国共産党から睨まれて、未だに就職が出来ないそうです。

※『智取威虎山』は、革命現代京劇の題目として有名。
いわゆる抗日戦争もので、国民党と共産党との内戦を神話化した共産党賛美の話です。
京劇でも「土匪:どひ(集団をなして、掠奪・暴行などを行う土着の匪賊のことで、体制側から見て反体制的・反社会的な集団)の統領だった国民党の座山雕(人の名)の基地、威虎山に英雄・楊子栄が入り込み、知略によって外部に情報を送り内と外両方からの攻撃で匪賊を全滅させる。」、こんな内容になっています。

【「小説」から革命現代京劇『智取威虎山』成立までの改編歴程 】
1957年9月A 長編小説『林海雪原』の出版
1958年5月B 話劇『智取威虎山』(北京人民藝術劇院10))
1958年8月、9月C 現代京劇『林海雪原』(上海京劇院一団11))
1958年D 現代京劇『智擒慣匪座山雕』(北京京劇団)
1963年E 話劇『智取威虎山』
1964年6月~7月F 現代京劇『智取威虎山』(上海京劇院集体改編12))
1967年5月G 革命現代京劇『智取威虎山』(上海京劇団『智取威虎山』劇組                                                                                                       集体改編13))         『革命模範劇と江青-革命現代京劇『智取威虎山』における女性描写を中心に』(吉田陽子)   より抜粋

『智取威虎山』は、出版や上記京劇の開催の遍歴を見ても分かるように、中国共産党を讃(たた)える国家的な一大叙事詩と言っても良いと思います。

畢福剣(当時56歳)は即興で、京劇『智取威虎山』を題材にした草創期の中国共産党を讃える革命歌に、別の歌詞を当てて『中国共産党は、第2次大戦時、日本軍に接触しないよう、いろんな村村を逃げ回ったり、山に隠れたりしていた。「毛沢東は周りに若い女性を囲いつつ、我々を苦しめた。」』等と、面白おかしく歌ったといいます。                           再生録画では、彼は酒宴の余興としておおいに場を盛り上げようと、毛沢東が好色であることを風刺する寸劇で、ひとり二役を演じて客を笑わせていた様です。             これを聞いていた同席者は、こらえきれずに大笑いした様です。

会食の席でこれを携帯電話で撮影していた人がいて、この動画を微信(ウェィシン)に載せると瞬く間に広がり、Uチューブにも転載されて行きました。ところが中国で最も人気があるテレビ司会者が、故毛沢東主席を批判したという事で、大騒ぎとなりました。

中央テレビは微博の公式アカウントで「中央テレビの司会者として、ネット上の動画で畢福剣が行った発言は重大な社会的影響をもたらした。」との声明を発表し、調査を行うと述べ、彼は直ぐに当時人気だった4本の番組を全て、降ろされました。

畢氏はその後、中国版ツイッターの微博で、「私の個人的な発言が重大な社会的影響を招き、後悔しています。心より世間の皆さまにお詫びします。公人として、この事件から教訓をくみとり、自らを厳しく律したい。」と謝罪しましたが、直ぐに削除され、その後共産党機関紙・人民日報系の環球時報でも、非難されています。                    その後何回か微博に自身の意見を載せても直ぐに削除されており、再起は難しい状態になっています。

毛沢東は中国では「建国の父」として尊敬の対象となる一方で、独裁政権下の政策の失敗による飢饉(ききん)などで数千万人の死者を出し、その後の「文化大革命」による犠牲者の合計数も数百万人から数千万人とも言われています。                    この様なことから、経済規模の縮小や歴史文化の破壊を招いたことから、失政を批判する人も多いのです。

私の友人のリョウさんも、『毛沢東は、ヒットラーがユダヤ人を虐殺した以上に、多くの中国人を殺した。』と言っていますが、この様にひそひそ話ならともかく、公の場で毛沢東の名誉を汚す発言は、今でも中国ではタブーになっています。                 ですから、ビー・フ―ジェンが職場に復帰できる可能性は、殆んど無いと思われます。

ただ瞬く間に微信(ウェィシン)を通じ、本音が国内外に広く知れわたる時代になったという事は、多くの人にとっては、酒飲み友達の前で冗談も言えない、油断出来ない怖い世の中になったと、言えなくは無いと思います。

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